高齢者の方が喜ぶことの1つに、昔の話をすることがありますね。
実は、これが 認知症を遅らせたりする効果 があるのです。
つまり、高齢者の方が思い出話をするだけで、脳トレにもなるって事なんです!
興味を持つきっかけとなったのは、86歳になる私の母が昔の話をする時に、普段は沈んでいるのに、なんだかすごく元気になるのを前々から感じていたんです。
で、これって、他のお年寄りの方もみなさん、そうなのかな?と思って調べていくと、ある言葉にたどり着きました。
その言葉とは回想法といって、高齢者に昔の思い出話をしてもらうことで、認知機能に回復効果をもたらす手法なのだそうです。
専門的にも、ぼけ防止の効果が見られるということですが、ここでは、あまり固く考えず、回想法を参考にして、自宅や介護施設で気軽にできる脳トレとして、やり方や効果・注意点などを見ていきたいと思います。
おじいちゃん、おばあちゃんとのコミュニケーションのきっかけとしても、ドンドン活用していきましょう!
高齢者が喜ぶ昔の話!回想法を取り入れた脳トレ!
回想法とは
回想法とは、思い出話を語ることによって、その人の精神の安定化を図る心理療法です。
1960年代にアメリカの老年精神科医 ロバート・バトラー氏が、高齢者のうつ病治療として回想法を提唱したのが始まりです。
そして、90年代には日本にも広まりました。
回想法というのは、相手の歩んできた背景や時代をリサーチして質問し、過去を自然に引き出して差し上げる手法です。
基本的には、聞き手が受動的な態度で、話し手の過去の思い出を聞いて、話してもらうというコミュニケーションで、ご家庭でマンツーマンや少人数でも、デイサービスなどの施設でグループでもやる事ができます。
では、回想法を参考にして、高齢者の方に昔話を質問して、お話していただく「脳トレ」について、一緒に見ていきましょう(^^)
昔の話の質問のしかた
道具は基本、要りませんが、思い出をより引き出しやすくするために、遊び道具や生活用品、写真などを使うこともあります。
- お手玉
- メンコ
- 尋常小学校読本
- 日の丸弁当(写真)
- 白黒テレビなど昔の電化製品(写真)
- お針箱
- かっぽう着
- 国民服
- 軍服
- もんぺ・防空頭巾
- 洗濯板
- 木のたらい
等など、挙げたらもっといっぱい有りそうですね。
やり方の例
質問する相手の昔の生活スタイル、仕事、地域など、しっかりと調べて、それに合った話を聞いてあげたり、その方が1番輝いていた時代の出来事を質問したり、それにちなんだ歌を唄って、思い出してもらいます。
例えば、次のような質問をしてみましょう。
- 昔の女優、俳優の写真を見せて、どの俳優がお好きだったんですか? この女優は、どんな映画に出たんですか?
- 若い時に満州鉄道で働いていた方に、鉄道員の帽子や切符を切る道具を用意したり、鉄道に関係する歌を唄って、毎日、どんなお仕事をされていたんですか?
- 初恋の話しを聞かせてくれますか?
など、おばあちゃん、おじいちゃんにとっては、もう50年から70年以上前の出来事ですが、まるで昨日のことのように思い出される事と思いますよ。
ちょっと照れくさくて、でも、嬉しい若い日の話。そんな話をみんなでするのも、幸せなひとときですよね。
昔の楽しかった事、胸ときめいた事を思い出すだけで、胸あたたまるものです。
高齢者が喜んで昔のことを話している動画
おじいちゃんやおばあちゃんの表情がイキイキしてますよね(^^)
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こうして、昔のことを話してもらうことで、高齢者の方にとって、どのような効果があるのかな?と気になったのではありませんか?
次は、具体的に、昔話を話す「脳トレ」が、高齢者の方に、どうのような効果があるのかを説明したいと思います。
昔話の脳トレの効果とは
昔話を話す事は、認知症であってもなくても、高齢者の方にとっては、喜ばしい効果を発揮するようです。
それは、大きく分けて次の5つです。
脳を活性化できる
自分が話したり、他の人の経験を聞いて刺激を受けることで脳の血液循環が増え、脳が活性化します。
他の人とコミュニケーションができる
記憶の障害が進行した方(認知症)でも、古い記憶は比較的最後まで保たれるので、それを逆に利用して、他の人とコニュニケーションをする事ができます。
不安や孤独を減少できる
当時の記憶が蘇ることで情動が活性化し、孤独感や不安を減少させ、意欲を向上させる事ができます。
自尊心や人生を再発見できる
これまで培ってきた経験や知恵を語ることで、自尊心を取り戻し、自分の人生を再発見できます。
人生の総括と吟味ができる
今までの人生に思いを巡らすことによって、総括したり、吟味することができます。
このような効果が分かってきたのも、アメリカだけでなく日本でも、ある医師の研究によって、昔話をする=回想法が高齢者の認知症の進行を遅らせる効果があることが、証明されたからなんです。
どんな研究だったのかを、次に紹介します。
回想法の研究でわかった認知機能の変化
国立長寿医療研究センターの遠藤英俊医師が、北名古屋市の回想法スクールで参加者の認知機能の変化を調べました。
月1~2回を計8回、開催して、参加者の認知機能を調べると、ある一定の変化を示したそうです。
参加前後と、終了して2年後の計3回の評価と、スクールに参加していない人とも比較しました。
すると、 回想法を実施した人(66~84歳の13人)は、実施していない人(66~84歳の13人)に比べて、認知機能の改善が見られたんです。
実施対象者は認知症ではない高齢者ですが、回想法は2年後まで効果が持続し、認知機能が向上する可能性があることもわかったそうです。
「回想法って、そんなにすごい手法なら、専門家じゃないと出来ないんじゃないの?」と思ってしまった方もいるかもしれませんね。
でも、個人的にお家で高齢のご両親とやったり、介護施設でレクリエーションの中に取り入れて行う「脳トレ」なら、誰でも出来るんですよ!
次は、その事についてお話しましょう。
昔の話を聞くには資格が要るの?
回想法を取り入れた脳トレを計画して施行する事は、特別な資格は必要ありません。
もちろん、臨床心理士や看護師、精神保健福祉士、作業療法士、介護福祉士など専門家が行っている所もありますが、地域のボランティア団体でも、回想法を行っている高齢者支援のグループもあります。
より専門的に行おうと思ったら、認知機能の検査をしてグループを分けて行ったりします。
この場合、ただ単に、認知症の高齢者の方と健常の高齢者の方を分けるだけじゃなく、認知症のタイプによっても分けるなど、準備も大変なんだとか。
ですが、そこまで細かく拘らず、専門的な回想法の要素を取り入れて、広く一般にレクリエーションという形や、自宅で気軽に取り入れていけば良いと思うのです。
次は、冒頭でも書きましたが、私が家で母の昔の話しを聞いた時に、これも回想法なのかな?と思ったエピソードを紹介します。
昔の話を聞くと喜んでイキイキとする母
現在、私の母は86歳で、要介護3です。
認知症ではありませんが、立て続けに腰と大腿骨を骨折して、歩く自信を無くし、外には出なくなってしまいました。
今は、家の中をトイレに行くときだけ、杖をついて歩き、週に2回デイケアセンターに通っています。
私の家から車で30分の所に兄夫婦と2世帯同居していますが、昼間は誰とも喋らずテレビばかりを見て、食事も1人で食べます。
そんな状態なので、私が時々行って、母に、母の過去の話などを聞くのですが、そうすると、母が笑顔になり、気分が高揚し、イキイキと元気になるのです。
もちろん、昔の話を聞くと、毎回、毎回、同じ話になってしまうのですが、繰り返して話す事って、絶対に忘れられないほどの楽しい思い出なんだと思うのです。
小学生の頃にクラスで勉強が1番できたとか、戦争中に疎開した話とか、家が貧乏で、勤めに出て働いたお金を全部、母親(私にとってはおばあちゃんです。)に渡していたとか、初恋の人は、俳優の誰かに似た人だったとか・・・
あえて、回想法などと専門的な名前をつけなくとも、お年寄りというのは、そういう話をしたがるものだし、それをこちらが積極的に聞くと、とても喜んで、たくさん話してくれるものです。
話を聞く私達は、“ またこの話^^; ”と思っても、お年寄りの嬉しそうでイキイキした表情を見ると、多少は、我慢をしてでも、聞いてあげようという気になるものですよね。
なので、高齢者である母親が寂しそうにしていたり、沈んでいたりする時は、母の昔の話を聞いてあげるんです。
ですが、素人だからと言って、何も気にせず、質問して答えてもらうだけではなく、やはり、気をつけなければならない事があるようです。
その事についても、次の章で抑えておきましょう。
質問者が気をつける5つの事
秘密(プライバシー)厳守
これは、当然の事ですね!
介護施設などでレクとして行う時も、職員の間でも徹底して秘密厳守を共有し、また、利用者さまにも、始める前のお約束として、「ここで聞いた話は、この時間以外に他で喋らないようにしましょうね。」と、注意喚起をしましょう。
もし、心配ならば、あまり深い話題に入り過ぎないように、質問者が気をつけながら行いましょう。
論争に発展しないように注意する
質問されて昔話をした人に対して、 他の人たちが反論やネガティブな態度を取らないように、話し手を守ってあげましょう。
回想に正解や間違いはありません。
例え、話す内容が世間一般の事実と大きく違っていたり、話すたびに違う事を言っても、その時には、それが本人にとっての真実なのです。
心を開いて話してくれた事が1番大事なので、話し手を敬い、耳を傾け、尊重するように、周囲を促しましょう。
あまり深入りをしない
あまりにも 個人的でプライベートな突っ込んだ質問は控えましょう。
いくら話し手が心を開いてくれたと言っても、調子に乗って、ズバズバ深いところまで踏み込んでしまうと、傷ついてしまいます。話しがプライベートな感じになりそうになる前に、別の話題を振るなど、転換を図りましょう。
疲れが見えたら止める
例え楽しい話であっても、過去を振り返るということは、とてもエネルギーを消耗するものです。
話し手の表情やおしゃべりなどに 疲れが見えたら、きりの良いところで終わりにしましょう。
気持ちよく終える
このように心理的なことに触れる事をした後は、 本人が気持ちよく、心地よく終えることが大事だと言われています。
これを専門用語で“ クロージング ”と言います。
思い出話をする事によって、無意識に心の深いところが動いているでしょう。
そうすると、辛い思い出話をした時などは、その気持ちを日常に引きずってしまう場合があります。
なので、最後は楽しい思い出や、希望につながる話題で締め、終わった後は、落ち着いた音楽を聞いたり、お茶やおやつを頂いてもらって、落ち着いた余韻を楽しむように工夫しましょう。
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高齢者が喜ぶ脳トレのまとめ
ここまで読んで、お年寄りが喜んで話す昔の話を聞く「脳トレ」に少しは興味を持っていただけましたか?
昔話の脳トレは、認知症の進行を遅らせたり、抑うつ効果があると言われています。
ですが、介護施設のレクや個人的にやる時は、あまり気負わずに、私達の知らない貴重な昔の話をしてもらい、お互いに楽しいひとときを過ごせれば良いくらいの気持ちで行いましょう。
昔を回想することを、レクリエーションにうまく取り入れて、若い時のようには動けなくなったお年寄りに、輝いた時の気持ちを味わってもらい、少しでも元気になってもらいたいものですね(^^)